活動開始から半年足らずで和音は、いきなりの初ワンマンにこぎ着ける。
まぁもっとも、お琴が武器の彼らには対バンという考え方がハナからなく、LIVEをやろう!それ即ちワンマンライブだった。
当時西日暮里にあった和楽器専門のLIVEハウスを予約して
「チケット代をいくらにしよう」
「なんの曲をやろう」
「MCでは何を話そう」
「衣装は何を着よう」
当たり前の全てが当然初めての経験で、そしてその全てが楽しかった。
およそ120席分のチケットは1週間もすれば完売し、それから15年以上に渡って今なお続く演奏家人生の幕は切って落とされることとなる。
立ち見で溢れ、満員も満員、超満員の人で溢れかえるLIVEハウス。どんな些細なMCも、「今日は暑いですね」の一言でさえウケた。
そして琴を奏れば拍手が巻き起こり、初めてのサインも握手も写真も全て経験した。
菊池は思った。
「き…気持ちよすぎる…」
夢を描き、語るにはちょうど良い年頃だったのかもしれない。彼はずっと続けていきたいと考える。そしてどうしたら続けていけるのか。その方法は簡単なことだった。
多くの若者が夢見る「音楽」というものは、学生からの卒業、その後の就職、そして仕事、結婚、様々な理由で終焉を迎える。
その根底にあるのは音楽では稼げない、この一点に尽きる。
「音楽=お金」で音楽を始めることは珍しいが、故にそこに最後は首を切られる。
「だから稼げる音楽を作る」これは間違っていないがしかし、時間的余裕は限られている。いつその才能が開花し世界に認められるかもわからないというのに、与えられる時間はあまりにも短い。
その猶予を伸ばす方法はないのか。
お金に色はないと思っている菊池には、音楽で稼ごう!という発想より、音楽をしながらでも稼げれば良いという方が強かった。就職しサラリーマンではまず仕事が休めそうにない。フリーターでアルバイトをしてもシフト提出後に演奏依頼が来たら揉めるのは明白だ。
何か個人で稼ぎ出し、あとは大学を卒業するまでに両親を説得する方法を…
そんな悩める日々の中、19歳から20歳へのカウントダウンと共に風の噂に乗ってやって来た【スロット】という存在が、その後の菊池の運命を大きく変えていく。
第5話へ続く↓↓↓