新規店舗の開拓に成功した柳川、町田、そして菊池の3人。この時にLINEが存在したらグループLINEが作られ、何かしらの「チーム名」のようなものがついたかもしれないが、この時はまだ折りたたみ式の、いわゆるガラケーで、当然LINEもなくそのようなものはなかった。
もしチーム名があったのなら、果たしてどんな名前がついていたか…それはまた別のお話。
3人でカバーする範囲の店舗が増え、前夜の下見で「打てる」と判断した台が稼働出来る人数を上回り、打ち手が足りなくなった。
期待値計算をするミーティングが開かれ、柳川が切り出す。
「新しい人を入れよう」
と。
正直、このメンバーでのノリ打ちが、というより、この3人での過ごす時間が心地よくなってきていた頃であった為、菊池は少し戸惑ったが、この提案に反対する者はなく話は進んでいった。
柳川「菊池くんは知り合いがいないだろう。町田は誰かめぼしいやついるか?」
町田「あー、一人いるよ。」
柳川「井岡?」
町田「だね」
どうやら二人の間には同一の人物が浮かんだようだ。
「井岡ってどんな人なの?」
菊池は訪ねた。
「んー、まぁ会ってみたら分かるけど…のっそりしてて良い奴だよ」
と柳川が笑う。
「根が真面目で、嘘ついたり裏切ったりはしないタイプ。それから1人でずーっとスロットで喰ってるから立ち回りはピカイチだよ」
町田が続けた。
スロットがうまいということは、この時の菊池にとってはそれだけでステータスであり、憧れる対象だったわけで、3人満場一致で井岡をスカウトすることになった。
初めて井岡に会う日。
3人が集まる喫茶店へ、柳川に呼び出された井岡が確かにのっそりと現れた。
背丈は160cmほどだが体重も90キロほどであろう、とてもふくよかで、「おぉ〜」とゆっくり手を挙げて歩み寄ってきた。
この時の井岡は主に大久保周辺のお店を根城とし、毎日東中野からのそのそと歩いて通っていた。動きは遅いがスロットの立ち回りは固く、そして軽い。解析値が出る前に独自にボーダーラインを計算、設定し、それを基準に立ち回り勝ちを積み上げていける能力を保持していた。
早稲田大学出身で、学生の頃スロットと出会った井岡はビタ押しも当然のようにこなせ、打ち方も丁寧で小役を零すことがほとんどない。
「1000万円貯めるのに1年間かからなかったよ」
という話をするくらいお金を使わないタイプで、とても穏やかな性格の男だった。
まるで山のフドウのような。
菊池はその力を目の当たりにすることになる。
第18話へ続く↓↓↓
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