現在都内では入場時のルールや常識はある一定の基準に達し、トラブルも極めて少なくなったわけだが、10数年昔はパチンコ店も気をつけるものの、所詮は「気をつける」だけ。
そこまでの厳格な規則はなく、ある種のグレーゾーンであった。
早朝からの並びを制し、いざ10時の開店を迎えた時のことだった。
一人一人の間隔を空けての入場はまるでテンポ60の速さで行われた。これは秒針が時計を一周する早さで、気を抜けば抜かされて行く可能性すらあった。
地下のスロットコーナー目掛けて
柳川
町田
菊池
井岡
の順番で入場し、そのすぐあとをタイミングを見計らって追い越そうとする敵陣。
井岡はここで最大限のっそりと、その大きな体を横に目一杯広げて歩いた。狭い階段、そのせいで前に出ようにも出られない。井岡の肩越しに前を伺う敵グループを尻目に菊池は誇らしげに思った。
「あの体はこのために必要なものなのか」と。
しかし、イライラを募らせた敵グループの1番小柄な若者が井岡の脇をすり抜け、階段を先頭の柳川を交わす勢いで駆け下りた。
その刹那。
柳川の手が物凄い速さで伸びて若者の首根っこを掴みなぎ倒してしまった。
「おい、ルールは守れよ、な?」
と笑顔で額に血管を浮かび上がらせながら、右手は強く握りしめられていたものの振りかざずことは耐えていた。
「柳川、喧嘩強えからなぁ」
と町田が笑いながらスタスタ歩いていく。
若者は何も言い返せず自分の定位置に戻って行った。
ある種ギリギリの攻防が日常的に行われていた時代。力こそ正義、とまではいかないが、道理を立ててその上で多少の力も必要なんだと分かる出来事だった。
4人とも狙い台を確保し、敵グループは打つ基準に達していない台を仕方なさそうに打ちながら、こちらを睨んでいた。
菊池は果たしてこのグループの中で自分に何が出来るのだろうと考えながら、吉宗のレギュラーボーナスを揃え、しれっと俵を8連させていた。
第22話へ続く↓↓↓