暖かな春の陽気に誘われるようにして、街が色鮮やかなピンク色に染まり賑わいを見せた桜舞う頃。
この年の開花は寒さの影響で4月になってからと、例年より2週間程遅れてやってきたがそれでも必ず春が訪れるように、菊池にもある想いが訪れていた。
「自分でやってみたい」
意を決して菊池は柳川にこう告げた。
「そっか、そういうこともあるよな」
何を生意気なと振り返れば思うところであろうが、この時は丁度スロプロ生活を始めてまる1年が経った頃。自分にも出来るのではないか、という思いが芽生えるのも理解しての柳川の反応だった。
そして柳川は笑いながら続けた。
「でも、きくっつぁんはスロットが好きすぎるから心配だなぁ。ダメそうでも打ちたくてやめらんないだろ?まぁいい勉強か。頑張ってみ!」
手塩にかけて育てた飛び方を知らない雛鳥が、大空に羽ばたいてみたいと言うことを心配する、親鳥の大きな背中がそこにはあった。
ノリ打ちでテリトリーにしているホールで据え置きを狙うことは出来ない。となればどこかで狙えるホールを探し出し、そこのライバルと競い合うほかないわけだが、この当時はどこのお店にもだいたいプロがおり、当然皆、自分の縄張りを守ることに気を張っていた。
菊池は徒歩で行ける範囲で様々なホールを見て歩き慎重にホール選びを行った。
するとどうだろう。
闘えそうなホールには必ずグループを形成したプロと思しき姿があり、そういった人の影がないお店は綺麗に狙えそうになかった。
(やっぱり無理でしたって言おうかな…)
(いや、教えて貰ったことを胸に頑張りたい…)
(でもどこで打てば…)
こうして菊池の新たなスロプロとしての闘いがはじまった。
そこで菊池がとった意外な策とは。
第32話へ続く↓↓↓