徒歩圏内を少し拡大して大久保駅近くのホールへちょくちょく顔を出しはじめた菊池は、そのホールに「あること」を感じていた。
それは他のホールとは明らかに違う雰囲気で、一言で言えば「異世界」。
まるで日本ではないような独特な空気だった。
それもそのはず、来店客のほとんどが韓国人。当然会話もハングル語を用いていた。
その為か、ライバルとなるようなプロ集団やスロプロも見当たらず、その分いわゆる出玉感もなかった。
だが、その中にあってジャグラーコーナーは
「連日クレOFFイベント開催中」
と書いてあり、
「クレOFF=海老」
と、海物語の海老の図柄が示されていた。
パチンコ海物語シリーズでは海老=5の図柄。確認こそ出来ないがそう謳っている。
だが、チラホラいる客がそれを理解し、狙っているようには見えなかった。なぜなら皆、それよりも雑談することに花を咲かせていたからだ。
菊池は考えた。
(人(ライバル)がいないのは確かだ。設定がもし本当に入っているなら…しかしジャグラーか…俺はAタイプなんかコツコツ打ってられるのか…?)
【スロプロ】とは、スロットで稼げる人のことを言う。
プロの定義は各種目、競技を問わず、その技量やそれに付随する魅力がその他の競技者や一般ユーザーより秀でることで稼いでいける者を指す。
つまり、うっすらとハイエナで稼ぎをあげているだけのこの時の菊池には、それを語る資格はなかった。
プロと謳うなら稼がねば。
若かりし頃の菊池はこういった意識がすこぶる強く、そういった意味ではとても尖っていて、琴が下手な者を愚者と排除し、弾けることが偉いといった「人としての傲り」が強かった。
これは歳を重ねるとともに穏やかな考えへと変貌を遂げていくが、こうした間違った悪しき考えは思いのほかどの世界にも根深く、現在麻雀の世界で音楽や番組のプロデューサーとしても活動している菊池は
「麻雀が下手=人としても下」
という考えの人間の多さに落胆している。
「麻雀が下手でも決して人として劣っている訳では無い」ということを声を大にして言いたいが、2005年、この時の菊池はまだ麻雀には出会っていなかった。
第34話へ続く↓↓↓