「割がある」
これが柳川の口癖だった。
平たくいえば「期待値が高い」ということなのだが、スロットで勝つ上ではこの見極めがうまいほど優位に闘える。
そしてこの意図するところを理解するのがなかなかに難しい。
例をいくつか上げてみると、
- 初代北斗の拳で、バトルボーナス中の台が空いていたら誰でも勝てると分かる。
- 吉宗で鷹狩直後の台が空いたらそれ即ち天国であるから勝てる可能性が高いということも分かるだろう。
- ジャグラーで朝イチ456確定の札が差してあるとまぁ勝てるのではないかと思える。
1番はボーナス終了後に即やめすれば、例え単発でも必ず勝つ。2番も当たりの後に天国抜けを確認すれば良い。3番も理論上期待値はプラスである。(札に信用がおければ)
と、徐々に勝てる可能性、期待値は下がっていくが、どれもプラス域である。そして誰もがやるのではないだろうか。
スロプロ3年目に突入していた頃、どこまでその可能性を追求するべきか見極める時期に入っていた菊池にとっては、はっとさせられるような出来事があった。
この頃導入された機種で
という機種がある。ATを搭載しているが、メダルが増えるものではなくコイン持ちが良くなるだけで、むしろ体感的には「せっかくのATなのに減っている」という印象を与えてしまったことで、一般ユーザーをガッカリさせた。
そのAT【Gモード】自体が連チャンするのだが、ボーナスが当たらなければただメダルが減り続ける為、Gモード中に捨てられていることがよくあった。
それを見つけてはコツコツとGモードが終わるまで打っている柳川や町田の姿をよく見かけた。
菊池は何故メダルが減るのにやるのかと尋ねると、柳川は諭すように答えた。
「いいかい、きくっつぁん。これが割があるってことなんだよ。当たらなければ確かにメダルを減らして終わるけれど、このコイン持ちが良い状態でボーナスの抽選を受けられる。この有利な状況で抽選を受けてる瞬間が、いわゆる期待値が高いってことなんだ。わかるか??」
実際に柳川や町田はコツコツとこのGモードを拾っては消化し、毎月3万円ほどの勝ちを上乗せしていた。
初代北斗の拳の最終年に皆が我先にと群がる中、確実に勝つためにコツコツと割があることを繰り返すことが、「スロットで食う」ということなのだと知った3年目の春だった。
第48話へ続く↓↓↓