「きくっつぁん、卒業おめ!!」
柳川がメールを送ってきた。
ふとした日常会話の中でこうした記念となる日をいちいちしっかりと記憶している柳川のマメさはピカイチで、菊池が感謝メールを返すと
「みんないるからおいでよ!」
といつものホールへ来るように促した。
ホールには町田も井岡もおり、
「王様定食いくか!」
と笑っていた。
「また王様定食ぅ〜?!行くー!!」
と笑い返した菊池。
皆生活に余裕があるから、ストレスがないから優しいという相対的な優しさではなく、仲間意識の高さと心根の優しさからくる絶対的な優しさが、この先永遠に続くかのように感じられる友情を作り出していた。
よき仲間に出会うこと。
その為には人を大切にすること。
裏切られても裏切らないこと。
昇れば人は寄ってきて、落ちれば人は離れていくけど、それでも友と決めたなら離れず信じること。
今現在、菊池が常々心にとどめているこの考えはこの頃より培われていった。
それでも会社を設立する度に友情は揺らぎ、不信感に悩まされて何度も自分を問いただす日々である。それほどまでに人間関係というのは難しく、手放しに感じられる安心感はなかなかに得難い。それ故にこの時のチームの思い出が菊池には色濃く残っており、この物語を紡ぐ原動力となっている。
風薫る秋。
大量獲得機史上最高の販売台数を誇った【吉宗】が夏に姿を消し、スロット史上最高の販売台数を誇る【北斗の拳】がホールからついに姿を消した。
まだ4号機は残っていたものの、一時代の終焉を感じさせるには十分な、いや、十二分に余りある光景であった。
時代は移り変わっていく。いつの時代も、どんな世界でもそれは変わらない。
そこに漂う哀愁は、秋のよく晴れた日の空に昇華され、菊池や柳川、町田、井岡の胸に深く刻まれた。
その物悲しさを埋めるのに、スパイダーマン2は大きく貢献した。
10月に登場し、117%の機械割を誇ったがこの時はまだ4号機も稼働しており、設定5.6を使う店も多くあった。
柳川がある日、ノリ打ち後にスパイダーマンを昼頃から稼働させ、5,000枚近くのコインを獲得してこう言った。
「この安定感は4号機ではなかなか味わえなかったかもしれないな。あとは店に設定を使い続ける体力がどこまであるか、その見極めだな」
この柳川の思いを皮切りに、この日から少しずつ「設定狙い」の出来る環境探しが始まる。

にほんブログ村
第51話へ続く↓↓↓
https://www.entamedamashii.com/entry/2018/12/09/133633