3月の柔らかな日差しに包まれ、桜のつぼみの開花を待ちわびながら歩く気持ちの良い昼下がり。菊池は一人、鼻歌を歌いながら歩いていた。
(目を閉じれば億千の星~一番光るお前がいる~🎶明日はいよいよ3月14日か~)
ホワイトデーは菊池の誕生日である。しかし彼が楽しみにしているのは自身の誕生日ではなく、行きつけのホールである「ホワイト」が年一イベントをすることにあった。
この頃のイベントは告知が出来たということもあって程よく人が分散しており、今のように何千人も抽選に来て座れないということが起こりづらく、戦うことが出来たことが大きい。
その上、他店で前日のデータ取りをしっかり行うことでリカバリーも効く。
午前中の稼働を終えて鼻歌交じりに帰宅し、夜のデータ取りに備えてお琴を弾いていた。
「お疲れっす~」
と柳川に話しかけると
「おう!」
という威勢の良い返事が返ってきた。
「明日ホワイト何時に並ぼう?」
「そうだなー、まぁデータ的にやれる台もチラホラあるし、7時頃で良いんじゃない?」
「7時ね、了解!」
本当にスロットに対しては皆一様に真面目で、勤勉であり真摯であった。ゲーム数管理の時代は本当によく研究し、1ゲームでも早く見切る方法や、止められている台が少しゾーン終了に足りていなければキッチリと拾ったりもし、メダルを1枚単位で多く獲得するように努めていた。
その礎を築いた柳川、町田、井岡に鍛えられたからこそ、勝ち続けてこれたのだろうと菊池は思う。
そして万全の体制、勝つしか考えられない勢いでホワイトデー当日を迎えた。
だが、そこには思わぬ落とし穴が待ち構えていたのだった。
第63話へ続く↓↓↓