スロットばかりに熱中していたわけではなく、2007年のこの年、菊池は生涯またとないであろう体験をすることになった。
一般的に日本人の海外旅行先といえば近場の韓国や台湾、常夏を所望すればグアムにハワイ、あるいはヨーロッパで食や美の旅を楽しむ人も多いだろう。
その中で、かなり候補日になりづらい国の中に「アラブ諸国」があるのではないだろうか。
「来月仕事の休み取れるからさ、海外でも行こうか」
「えー!いいねー!!」
「どこ行きたい?君の行きたいところに行こうよ!」
「じゃあイラン!!」
「イラン…だと…?!」
「えーじゃあバーレーンかなー?」
「ば…バーレーン…だって?!」
と、例えば彼女の行きたい先がアラブ諸国だった場合のやりとりはこうなるに違いない。
特に2007年はアメリカがイラクを攻めたイラク戦争が2003年であることから、いかに情勢が不安定であるかは想像に容易い。気は確かかと疑う以前に渡航許可すら降りていないレベルの話である。
その中にあって菊池の元に日本国大使館から下記のような要請があった。
「日本の伝統楽器の代表としてアラブ湾岸諸国ツアーを行ってきて欲しい」
この打診、スケジュール確認をされた当初はシンガポールあたりになるだろうといった話であったが、最終決定に未知の世界への扉を開ける鍵を渡されたのだった。
イランから入国、カタール、バーレーン、オマーン、クウェートの5カ国を約1ヶ月に渡って弾き行く旅路。
旅行ですら行くことのなかったであろう国々へ、菊池は1ヶ月もの間旅立つこととなる。
食事は
気温は
生活は
そして何より治安は…
果たして。
日本人にとっては馴染みの薄い国々で起る数々のドラマを、しばしお届けするとしよう。
第65話へ続く↓↓↓