2019年現在でも、菊池は常にトランプを持ち歩いている。クローズアップマジックの中でもカードに特化しているからこそ、マジックを求めて貰った際に演じれない自分は許せないのだ。
最近ではパチンコ店で声をかけられてマジックすることも増えたので、見かけた際は「マジックみたい!」と声をかけると簡単なものはその場で見ることが出来る。
ある種のこのプロ意識を菊池は若かりし頃から常に持っており、アラブ湾岸諸国ツアーにも数組のカードを持参していた。
晩餐会で突如始まったマジックショーに、アラブ人は興味津々。この時の食いつきっぷりに菊池は少し驚いたがそれもそのはず。
何故ならば、アラブではトランプは「賭け事を助長させる可能性がある」ということからあまり一般的には普及していないとのことで、そもそも皆あまりマジックを見たことがないのだと外交官があとから教えてくれたことで菊池は納得した。
そしてマジックが盛り上がるにつれてイラン人達は菊池の両サイドに陣取り、色々な角度から楽しもうと必死であった。更には肩の上に顔を乗せ気味にして食い入るように見てきた為、傍から見ると菊池を含む立派な髭面の男の顔が3つ横並びとなり、それはそれで会場を沸かせたのであった。
この時、通訳の入るマジックの難しさを学んだことで、「クローズアップマジックにおいていかに会話が重要であるか」を理解し、数年後にはそれを生徒への指導に役立てていく。単にテクニックを教えるだけではどうしてもマジックを演じることが出来るようにならない生徒も、言葉の使い方を教えると飛躍的に伸びていくことで、新たなマジックレッスンのスタイルを提案しているがそれはまた別のお話。
第69話へ続く。↓↓↓